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不安定積層欠陥エネルギーの第一原理計算:2界面モデルによる強磁性fcc-Coの評価#

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コバルト (Co) 基合金・超合金は、幅広い温度域で優れた耐摩耗性と高強度を示し、航空エンジン・医療インプラント・工具などに広く用いられています。その特性の鍵は、準安定な面心立方 (fcc) 構造から六方最密 (hcp) 構造への「変態のしやすさ」にあります。この fcc→hcp 変態やすべり・変形双晶といった塑性変形機構は、(111)面上の積層欠陥の生成しやすさによって支配されます。特に、積層欠陥エネルギーの第1極大が不安定積層欠陥エネルギー (部分転位の核形成障壁)であり、すべり・双晶の起こしやすさを支配する本質的な量の一つです。SiC の積層欠陥評価などで有効な ANNNI モデルは、安定な積層欠陥のエネルギーを与える一方、核形成障壁である は評価できません。そこで本解析では、強磁性の Co に対しスピン分極を考慮した直接スーパーセル法を用い、第一原理計算ソフトウェア Advance/PHASE により純fcc-Coの を評価します。真空を含まない周期スーパーセルでは、剛体せん断によって2枚の積層欠陥界面を同時に生じる(以下「2界面モデル」)ため、これを適切に規格化して1界面あたりの を求め、その妥当性を検証します。

Keywords: 第一原理計算, DFTシミュレーション, 不安定積層欠陥エネルギー, 2界面モデル, コバルト, スピン分極(磁性), fcc→hcp変態

計算方法:直接スーパーセル法による積層欠陥エネルギー曲線(γ曲線)#

γ曲線は、結晶を(111)面で二つに分け、上半分を 方向へ剛体的にせん断したときの、単位面積あたりの過剰エネルギーとして定義されます [1, 2]。fcc積層からショックレー部分転位のバーガースベクトル (長さ ) ぶんだけ上半分をすべらせると、内在型積層欠陥 (ISF) が生じ、fcc中にhcp核 (…BCBC…) が形成されます。すべり量を無次元パラメータ (部分転位1本で )で表すと、γは次式で与えられます。

  • :すべり量 の構造の全エネルギー、:基準構造()の全エネルギー
  • :積層欠陥面 (2原子) あたりの面積、:fcc格子定数
  • :1セルに含まれる積層欠陥界面の数 (真空なし周期セル=2、真空スラブ/傾斜スーパーセル=1)
  • :γ曲線の極大 (不安定積層欠陥エネルギー、部分転位核形成の障壁)

界面数 について:真空を含まない完全周期セルでは、上半分を剛体的にすべらせると、狙った内部のすべり面だけでなく、周期像とつながるセル境界の(111)面も同じだけせん断されます。すなわち1セルあたり2枚の等価な欠陥界面が生じるため、1界面あたりのγは として上式で規格化します。なお本セル (11層=3の倍数+2) では基準構造 () の境界がすでにISF相当の積層ずれを1枚含んでいます。そのため、2枚の界面はすべり量 の配置をとることになり、γ曲線は について対称になります。この結果、 の値は厳密には に対応します(:安定積層欠陥エネルギー)。

剛体せん断で与えたすべり を保持したまま、欠陥面近傍の層間距離歪みのみを取り込むため、面内(x, y)座標とセル形状を固定し、すべり面に垂直な[111]方向 (z方向) の原子座標のみを緩和します。これはγ曲線計算の標準手続きであり、構造緩和中にすべりが元に戻ってしまうことを防ぎつつ、鞍点である を正確に評価できます。また、Coは強磁性のため、全計算をスピン分極で行います。

計算モデルと計算条件#

計算モデルとして、文献 [3] を参照して、fcc Co(111)面を11層積んだ直方晶スーパーセル(22原子、積層順序 ABCABCABCAB)を用いました (図1)。周期セルの高さは層間距離 の11倍とし、周期境界で層が重ならないようにしています。ISF経路は、上部の第7〜11層を 方向へ だけ剛体シフトして生成し、 から まで0.1刻みの11点を計算しました。

z方向のみ最適化した各すべり量の緩和構造
図1. z方向のみ緩和した実際の計算構造(視認性のため2x2x1スーパーセルで表示)。左:、中: (不安定積層欠陥の障壁)、右: 。縦軸が積層方向 。上部ブロックが 方向へすべる様子と、欠陥面近傍の層間緩和が見て取れます。

計算モデルおよび計算条件を表1にまとめます。強磁性金属であるCoの微小なエネルギー差を精密に取り出すため、カットオフ・k点などの計算条件を全すべり点で統一しています。

表1. 計算モデル・計算条件

積層・原子数 fcc(111) 11層 / 22原子、ABCABCABCAB
面内格子定数 3.5211 Å (EOSより最適化)
すべり方向
交換相関汎関数 GGA (PBE)
スピン 強磁性、初期スピン分極 ζ=0.2
カットオフ (波動関数 / 電荷密度) 36 / 324 Rydberg
k点サンプリング 13×7×2 (Monkhorst–Pack)
構造最適化 z方向のみ緩和 (面内固定)

計算結果と考察#

γ曲線#

得られたγ曲線を図2に示します。曲線は を中心に左右対称です。この対称性は前述のとおり本セルの構造的な特徴から厳密に成立するものであり、計算の数値的な健全性を示すものです。ピークは に位置します。

fcc-CoのSFE曲線(ISF経路)
図2. 純fcc-Coの不安定積層欠陥エネルギー曲線(2界面モデル、1界面あたり )。赤点はAdvance/PHASEによるDFT計算値。 の極大は 309 mJ/m2/界面 (厳密には 、本文参照)。比較として傾斜スーパーセル法での純Co値 (、Tianら 2017 [4]、橙破線) を示します。 では純Coの構造的対称性から の状態と等価 () になるため、この点は のエネルギーそのものに対応していません。

本セルでは、剛体せん断によって2枚の欠陥界面が同時に生じるため (前述の )、 として1界面あたりに規格化します。得られた の値 mJ/m2/界面に、0 K の として傾斜スーパーセル計算 (Tianら [4]、EMTO-CPA、単一界面) の文献値 −106 mJ/m2 を用いると mJ/m2 と見積もられ、同文献の mJ/m2 と方法差 (EMTO-CPA と平面波 PBE、緩和条件)の範囲内で整合します。より正確に値を確定させるには、単一界面モデル等を用いて を別途評価し、補正する必要があります。

安定積層欠陥エネルギーについて#

一方、安定積層欠陥エネルギー (内在型積層欠陥 ISF のエネルギー)は、本モデル(11層構造)の特性上、直接評価することができません。本解析のような純Coの系では、(ISF欠陥がセル境界に1枚)の状態と、(ISF欠陥がセル内部に1枚)の状態が結晶構造的に等価となるため、エネルギー差はゼロとなります。そのため、 の点は のエネルギーそのものに対応していません。 自体や、双晶変形障壁などの積層欠陥エネルギーを個別に直接評価するには、傾斜スーパーセル法や真空スラブモデルなどを用いる必要があります。

積層欠陥形成に伴う磁性の変化#

スピン分極計算から得た磁気モーメントは全すべり点で 1.671〜1.674 /atom であり、実験値(約1.6)およびAchmadらのDFT計算結果 (1.65) [3] とよく一致します。注目すべきは、モーメントがで最小(1.671)、不安定積層欠陥の障壁()で最大(1.674)となる明確な相関です(図3)。鞍点での不整合な積層配置がd電子の遍歴性をわずかに弱め、局所モーメントを増大させていると考えられます。これは、Coの積層欠陥物性がスピンと強く結合していることを示しており、本評価においてスピン分極計算が必須であることを裏付けています。

ISF経路に沿った磁気モーメント変化
図3. ISF経路に沿った1原子あたり磁気モーメント。

まとめ#

第一原理計算ソフトウェア Advance/PHASE を用い、スピン分極を考慮した2界面スーパーセルモデルにより、強磁性fcc-Coの不安定積層欠陥エネルギー を評価しました。規格化した の値()は 309 mJ/m2/界面であり、文献の mJ/m2 [4] で補正すると mJ/m2 となって、傾斜スーパーセル計算の文献値 (290) と同水準で整合します。また、磁気モーメントが不安定積層欠陥の障壁で最大となる系統的相関を捉え、Coの積層欠陥物性がスピンと強く結合することを示しました。

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参考文献#

  1. V. Vitek, "Intrinsic stacking faults in body-centred cubic crystals", Philos. Mag. 18, 773 (1968).
  2. E. B. Tadmor and S. Hai, "A Peierls criterion for the onset of deformation twinning at a crack tip", J. Mech. Phys. Solids 51, 765 (2003).
  3. T. L. Achmad, W. Fu, H. Chen, C. Zhang, and Z.-G. Yang, "First-principles calculations of generalized-stacking-fault-energy of Co-based alloys", Comput. Mater. Sci. 121, 86 (2016).
  4. L.-Y. Tian, R. Lizárraga, H. Larsson, E. Holmström, and L. Vitos, "A first principles study of the stacking fault energies for fcc Co-based binary alloys", Acta Materialia 136, 215 (2017).

関連ページ#