二酸化炭素(CO2)の電解還元反応における触媒活性の第一原理解析#

二酸化炭素(CO2)の電解還元は、再生可能エネルギーを用いてCO2を有用な化学物質に変換する技術として注目されています。 この反応において、銅(Cu)は多様な生成物を生み出すユニークな触媒であり、特に高い活性を示すことが知られています。触媒活性の起源を理解するためには、反応メカニズムの支配要因を特定することが不可欠です。Sabatier原理によれば、触媒活性は反応中間体(この場合はCO*)と触媒表面との結合エネルギーが「強すぎず、弱すぎず」最適な場合に最大になると予測されます。本解析では、第一原理計算ソフトウェアAdvance/PHASE を用い、密度汎関数理論(DFT) に基づいて、様々な金属触媒表面におけるCO吸着エネルギー(記述子)と触媒活性の関係を解明します。
Keywords: 第一原理計算, 密度汎関数理論(DFT), CO2電解還元, 触媒活性, Sabatier原理, ボルケーノプロット, CO吸着エネルギー, 記述子, 遷移金属
計算モデルと計算条件#
計算モデルとして、Pd, Rh, Pt, Cu, Ag, Au の面心立方(fcc)金属について、その最密充填面である(111)面を対象としました。本解析は多数の候補材料を高速にスクリーニングすることを想定し、計算コストと精度のバランスを考慮して、3層のスラブモデル(底面2層は固定)を採用しました。表面は 2x2 のスーパーセルを用い、真空層は 20 Å としました。
計算に先立ち、各金属のバルク格子定数を最適化しました(スラブモデルは、最適化した格子定数に基づいて作成したものです)。図1は、fcc Rhのエネルギー-体積(E-V)曲線を示しています。算出された格子定数は3.83 Å でした。
図1. fcc RhのE-V曲線。は慣用セルの体積です。最小エネルギーを与える格子定数 (3.83 Å) が算出されました。
本解析で用いた主な計算条件は表1に示されています。
表1. 計算条件の概要
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| 擬ポテンシャル | ウルトラソフト |
| 交換相関汎関数 | RPBE + D3 |
| 波動関数のカットオフエネルギー | 25 ~ 50 Rydberg |
| k点サンプリング | セルサイズに応じて設定 (5x5x1或いは6x6x1) |
| 表面スーパーセル | 2x2 |
| 原子層 | 3層(底面2層固定) |
| 真空層 | 20 Å |
触媒活性の記述子として用いるCOの吸着エネルギー()は、以下の式で定義されます。
ここで、 はCOが吸着したスラブ、 は清浄なスラブ、 は孤立CO分子の全エネルギーです。COの吸着サイトは、特にPt(111)表面などでDFTでの予測が難しいことが知られています(Pt/CO Puzzle [1])。本解析では、個々の吸着サイトの厳密な特定(Pt/CO Puzzle等のDFT特有の課題)よりも、記述子の迅速な算出による全体傾向の把握を優先し、実験的に妥当とされるサイトを採用しました [2]。具体的には、Pdはfcc hollowサイト、その他(Rh, Pt, Cu, Ag, Au)はtopサイトとして計算しました。
計算結果と考察#
CO吸着構造#
図2に代表的な吸着構造としてPd(111)表面(fcc hollowサイト)とAg(111)表面(topサイト)の最適化構造を示します。
図2. (左) Pd(111)/COでの吸着構造(斜視図と上面図)。COがfcc hollowサイトに吸着しています。(右) Ag(111)/COでの吸着構造(斜視図と上面図)。COがtopサイトに吸着しています。固定原子層は半透明にしています。
CO吸着エネルギーと汎関数の比較#
計算された(111)面上のCO吸着エネルギーを表2にまとめます。本研究で用いたRPBE + D3汎関数の結果と、文献 [3] に用いたBEEF-vdW汎関数による計算結果を比較しています。
表2. 各金属(111)面上のCO吸着エネルギー (単位: eV)
| Metal | Site | ΔERPBE_D3 | ΔEBEEF-vdW |
|---|---|---|---|
| Pd | fcc | -1.73 | -1.78 |
| Rh | top | -1.69 | -1.68 |
| Pt | top | -1.54 | -1.47 |
| Cu | top | -0.47 | -0.48 |
| Ag | top | -0.02 | -0.08 |
| Au | top | -0.02 | -0.01 |
表2に示すように、RPBE + D3とBEEF-vdWでの計算結果は非常に良好な一致を示しています。この強い相関関係は、図3の相関プロットからも明らかです。
図3. 2つの汎関数(RPBE+D3 vs BEEF-vdW)で計算したCO吸着エネルギーの相関図。フィッティング直線 (Y=0.99x - 0.02, R2 = 0.9969) は、理想的な相関 (y=x, 黒点線) とほぼ一致しており、RPBE+D3がBEEF-vdWと同等の傾向を精度良く再現していることが分かります。
触媒活性と記述子の関係 (ボルケーノプロット)#
Sabatier原理 に基づき、触媒活性(ここではCO還元の電流密度 Log(j)) [3] と記述子(CO吸着エネルギー )の関係をプロットしたものが、図4の「ボルケーノプロット」です。
図4. CO還元活性のボルケーノプロット。触媒活性 (Y軸) がCO吸着エネルギー (X軸) に対して火山型(Volcano)のトレンドを示しています。
このプロットは、触媒活性の傾向を明確に示しています。
- 強吸着側(左側): Pd, Rh, Pt はCOを表面に強く吸着しすぎます。COが表面に強く束縛され、次段階の反応(脱離や水素化等)が阻害されるため、活性が低下します。
- 弱吸着側(右側): Au, Ag はCOの吸着が弱すぎます。表面へのCO滞留時間が短く、反応が効率的に進行しないため、活性は低くなります。
- 最適点(頂上): Cuはボルケーノの頂上付近に位置しています。これは、CuのCO吸着エネルギー(本計算では-0.47 eV)が、強すぎず弱すぎない「ちょうど良い」値であることを示しており、結果として最も高い触媒活性を示します。
一方で、CO2電解還元で最も高い活性を示すCuであっても、(111)面自体の活性は全体的に低いことが示唆されます。文献 [3] によれば、(211)面のようなステップサイトを持つ表面の方が高い活性を示すと報告されています。また、本解析では記述子として吸着エネルギー(ΔE) を用いましたが、振動計算を含めた吸着自由エネルギー(ΔG)を用いることで、より実験と相関の高い記述子が得られる可能性が文献 [3] で示唆されています。ただし、その場合は計算コストが大幅に増加するため、本解析のような傾向のスクリーニングには吸着エネルギー(ΔE)が有効な記述子であると言えます。
まとめ#
本解析では、第一原理計算ソフトウェアAdvance/PHASE を用い、CO2電解還元反応における各種金属触媒(111)面の活性について、CO吸着エネルギーを記述子として解析しました。計算結果は、Sabatier原理に従う明確なボルケーノプロットを示し、CO吸着エネルギーが適度(強すぎず、弱すぎない)であるCuが、今回検討した金属の中ではボルケーノの頂点に最も近く、高い活性を示すことを理論的に裏付けました。また、用いたRPBE+D3汎関数は、より高コストなBEEF-vdW汎関数と非常に良い相関を示し、触媒活性の傾向を予測する上で有効な手法であることが確認できました。
参考文献#
- P. J. Feibelman, B. Hammer, J. K. Nørskov, F. Wagner, M. Scheffler, R. Stumpf, R. Watwe, and J. Dumesic, "The CO/Pt(111) Puzzle", J. Phys. Chem. B 105, 4018 (2001).
- A. Patra, H. Peng, J. Sun, and J. P. Perdew, "Rethinking CO adsorption on transition-metal surfaces: Effect of density-driven self-interaction errors", Phys. Rev. B 100, 035442 (2019).
- X. Liu, J. Xiao, H. Peng, X. Hong, K. Chan, and J. K. Nørskov, "Understanding trends in electrochemical carbon dioxide reduction rates", Nat. Commun. 8, 15438 (2017).
関連ページ#
- 第一原理計算ソフトウェア Advance/PHASE
- 解析分野:ナノ・バイオ
- 産業分野:材料・化学