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ペロブスカイト太陽電池の高効率の起源を探る:立方晶CsPbI3を用いた第一原理計算#

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近年、次世代の太陽電池として「ハロゲン化金属ペロブスカイト」が大きな注目を集めています。 その最大の特徴は、溶液塗布プロセス等により安価に作製可能であるにもかかわらず、結晶内に多量の欠陥が存在しても高い光電変換効率を維持できる「特異な欠陥耐性(Defect tolerance)」を有している点にあります。ペロブスカイト太陽電池の第一原理計算においては、実デバイスで多用される有機無機ハイブリッド型(CH3NH3PbI3など)が計算対象とされることがよく見られます。本解析では、物性の本質が無機骨格そのものにあるという理論的背景に基づき、電子状態の本質的な物理を抽出するため、あえて有機分子の配向などの複雑な要素を排除した無機ペロブスカイトの理想的な高温相(立方晶 CsPbI3)を計算モデルとして採用しました。第一原理計算ソフトウェアAdvance/PHASEを用い、高対称な5原子モデルの計算結果から、ペロブスカイトが特異な欠陥耐性を示す物理的起源を説明します。

Keywords: 第一原理計算, DFTシミュレーション, ペロブスカイト太陽電池, CsPbI3, バンド構造, 状態密度, 反結合性軌道, 欠陥耐性

計算モデルと計算条件#

計算対象として、立方晶系の理想ペロブスカイト構造(空間群 Pm-3m)を持つCsPbI3の5原子単位セルモデルを使用しました。 頂点に鉛(Pb)、辺の中心にヨウ素(I)、体心にセシウム(Cs)が配置された対称性の高い構造です。

電子状態計算は、密度汎関数理論(DFT)に基づき、固体の構造最適化に適したPBEsol汎関数を用いて以下の条件で実施しました。

表1. 主な計算条件

項目 設定
擬ポテンシャル ウルトラソフトポテンシャル
交換相関汎関数 GGA (PBEsol)
カットオフエネルギー 波動関数: 35 Rydberg / 電荷密度: 315 Rydberg
k点サンプリング (SCF) 6 × 6 × 6
k点サンプリング (DOS) 12 × 12 × 12

計算結果と考察#

1. 状態方程式(EOS)と体積弾性率#

まず、セルの体積を変化させながら全エネルギーを計算し、Energy-Volume(E-V)曲線を求めました(図1)。計算点が状態方程式に基づくフィッティング曲線とよく一致しており、適切な計算条件で高精度にエネルギー評価ができていることがわかります。

CsPbI3のE-V曲線
図1. CsPbI3のE-V 曲線。

得られた最適化格子定数は 6.2616 Å となり、高温相(634 K)の実験値(約 6.289 Å)[1] を良好に再現しています。また、算出された体積弾性率は 17.44 GPa でした。シリコン(約100 GPa)などの共有結合性結晶と比較して、ペロブスカイトが非常に「柔軟な(Softな)」格子構造を持つ物質であることが定量的に示されています。この構造の柔軟性も、欠陥生成時の格子緩和に寄与すると考えられています。

2. バンド構造:直接遷移と有効質量#

最適化された構造を用いて計算したバンド構造を図2に示します。

CsPbI3のバンド構造
図2. 立方晶CsPbI3のバンド構造。赤い点線は価電子帯上端(VBM:0 eV、計算上のフェルミエネルギーの基準)を示します。

価電子帯の上端(VBM:0 eV)と伝導帯の下端(CBM)が共にブリルアンゾーンの「R点」に位置する直接遷移型のバンド構造であることが確認できます。この特徴により、ペロブスカイトは薄膜であっても高い光吸収係数を示します。また、R点付近のバンド分散の曲率が大きいことから、電子と正孔の有効質量が小さく、キャリアが高い移動度を持つことが電子状態の観点から裏付けられます。

3. 部分状態密度(PDOS):軌道のハイブリダイゼーション#

ペロブスカイトの特異な電子状態の核心に迫るため、部分状態密度(PDOS)を図3に示します。

CsPbI3のPDOS
図3. CsPbI3の部分状態密度(PDOS)。青線はPbのs軌道、オレンジ線はIのp軌道。

価電子帯の上端(VBM:0 eV)の直下において、主成分であるオレンジ線(Iのp軌道)のピーク位置に、青線(Pbのs軌道)のピークが同じエネルギー位置で重なり合っていることが確認できます。通常、重金属であるPbのs軌道はより深い(エネルギーの低い)位置に存在しますが、Iのp軌道との強い相互作用(ハイブリダイゼーション)によって押し上げられ、価電子帯の上端付近で強く混成していることが読み取れます。

4. 部分電荷密度の可視化:反結合性軌道の形成#

VBM(0 eV、R点)において強くハイブリダイズした軌道の実空間における形状を確認するため、フェルミ準位近傍(-0.1 eV ~ 0 eV)の部分電荷密度を可視化しました(図4)。

CsPbI3のVBM部分電荷密度(等値面)
図4. VBM近傍の部分電荷密度(等値面と断面図)。可視化のため、原子位置は並進移動されています。

Pb原子の周囲に球状の電子雲(s軌道)、I原子の周囲に亜鈴状の電子雲(p軌道)が描画されています。注目すべき点は、PbとIの電子雲が空間的に繋がっていないことです。両者の間には電子密度がゼロになる領域、すなわち「節(ノード)」が明確に存在しています。

一般的な共有結合性半導体では、価電子帯の上端は原子間を結合する「結合性軌道」によって形成されます。しかし、図の電荷密度分布から、ペロブスカイトの価電子帯の上端はPbのs軌道とIのp軌道が反発し合う「反結合性(Antibonding)軌道」によって形成されていることが視覚的に証明されました。

【反結合性軌道と欠陥耐性の関係】
一般的な半導体において欠陥(空孔など)が生成して結合が切断されると、バンドギャップの中央付近に深い欠陥準位が形成され、これがキャリアの再結合中心となって変換効率を低下させます。しかしペロブスカイトの場合、VBMが反発し合う反結合性軌道で構成されているため、原子が欠損すると相互作用(反発)が失われ、残された軌道のエネルギー状態はかえって安定化(低下)します。その結果、欠陥準位はバンドギャップ内ではなく価電子帯の内部(浅い準位、あるいは共鳴準位)に形成される傾向があり、キャリアの輸送を大きく阻害しません。これが、ペロブスカイト太陽電池が高い欠陥耐性を示す物理的メカニズムとされています [2, 3]。

発展的研究との比較#

本解析では物理的解釈を明確にするため、理想的な立方晶 CsPbI3 を用いました。ペロブスカイト太陽電池におけるこの特異な欠陥の物理(Unusual defect physics)については、世界の多くの理論的研究によって詳細な議論が行われています。

  • 欠陥耐性の理論的起源の提唱:
    ペロブスカイト太陽電池の高い欠陥耐性が「Pbのs軌道とIのp軌道のハイブリダイゼーションによるVBMの反結合性」に由来するというメカニズムは、Yinらがハイブリッド型(CH3NH3PbI3)の第一原理計算による先行研究 [2] において理論的に示しました。彼らの研究では、この物性の本質が「PbとIが成す無機骨格」に宿ることが指摘されており、本事例における無機モデル(CsPbI3)の計算結果は、この普遍的な物理メカニズムを直接的に可視化したものと言えます。同氏らの理論レビュー [3] でも、これはハロゲン化ペロブスカイトに共通する性質として詳しく解説されています。
  • 有機分子の影響と光学特性への展開:
    実際のデバイスに近い有機無機ハイブリッド材料に対して、Advance/PHASEを用いた第一原理計算によるアプローチも行われています。Shirayamaらの研究 [4] では、CH3NH3PbI3 の光学遷移において、有機分子(CH3NH3+)自体はDOSのバンド端に直接寄与しないものの、その分子配向が Pb-I ネットワークと強く相互作用することで、誘電関数(光学特性)に異方性をもたらすことが理論的に解明されました。
  • 水分による劣化機構の解明:
    さらに同氏らの研究 [5] では、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた重要課題の一つである「湿気による劣化」のメカニズムを調査しています。分光エリプソメトリーによる実験的観測に加え、Advance/PHASEによる第一原理計算を組み合わせることで、水分の影響下では CH3NH3I の脱離による PbI2 の形成と、水和物(hydrate)の形成という2つの競合的反応が進行することを微視的な観点から裏付けています。

まとめ#

本解析では、第一原理計算ソフトウェアAdvance/PHASEを用い、無機ペロブスカイト(立方晶 CsPbI3)の電子状態を解析しました。5原子という小規模なセルを用いた計算でありながら、バンド構造から直接遷移型の特徴を捉え、さらにPDOSと部分電荷密度の可視化により、価電子帯上端が「Pb-s と I-p の反結合性軌道」で構成されていることを明確に示しました。この特殊な軌道構成がペロブスカイト太陽電池の「特異な欠陥耐性」の物理的起源であることを、第一原理計算に基づくシミュレーションによって視覚的かつ論理的に説明することができました。

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参考文献#

  1. D. M. Trots and S. V. Myagkota, "High-temperature structural evolution of caesium and rubidium triiodoplumbates", J. Phys. Chem. Solids 69, 2520 (2008).
  2. W.-J. Yin, T. Shi, and Y. Yan, "Unusual defect physics in CH3NH3PbI3 perovskite solar cell absorber", Appl. Phys. Lett. 104, 063903 (2014).
  3. W.-J. Yin, J.-H. Yang, J. Kang, Y. Yan, and S.-H. Wei, "Halide perovskite materials for solar cells: a theoretical review", J. Mater. Chem. A 3, 8926 (2015).
  4. M. Shirayama, H. Kadowaki, T. Miyadera, T. Sugita, M. Tamakoshi, M. Kato, T. Fujiseki, D. Murata, S. Hara, T. N. Murakami, S. Fujimoto, M. Chikamatsu, and H. Fujiwara, "Optical Transitions in Hybrid Perovskite Solar Cells: Ellipsometry, Density Functional Theory, and Quantum Efficiency Analyses for CH3NH3PbI3", Phys. Rev. Applied 5, 014012 (2016).
  5. M. Shirayama, M. Kato, T. Miyadera, T. Sugita, T. Fujiseki, S. Hara, H. Kadowaki, D. Murata, M. Chikamatsu, and H. Fujiwara, "Degradation mechanism of CH3NH3PbI3 perovskite materials upon exposure to humid air", J. Appl. Phys. 119, 115501 (2016).

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