ニューラルネットワーク力場を用いたAl-Mg合金の融点計算#
ニューラルネットワーク力場(NNP)は原子の周囲の環境を再現するため、十分な教師データとセル体積があれば、ある程度ランダムな合金系にも対応可能である。自己学習ハイブリッドモンテカルロ(SLHMC)法を用いて異なる分率の教師データを作成し、合金系に対応可能なNNPを作成した。
SLHMC法を用いた教師データ作成#
- 初期構造にはMaterials Projectから取得したfcc構造のAl結晶(mp-134)をx、y、z方向にそれぞれ複製した32原子系を用いた。また、この構造のAlから1 〜 4原子をMgに置換し、計5つの初期構造を作成した。
- MD計算はNPTアンサンブルで行った。初期力場作成のための第一原理MDは200ステップ行い、その後のNNP-MDはSCF計算毎に10 〜 320ステップ(2.5 〜 80 fs)行った。溶融状態も再現するため、温度は2000 K、セルの変形はTriclinicとした。
- SCF計算は、ウルトラソフト擬ポテンシャルを用いた密度汎関数法(DFT)で行った。交換相関汎関数にはGGA-PBEを用いた。カットオフエネルギーは40.0 Ry、k点はΓ点のみとした。また、スピン分極は考慮しなかった。
- ニューラルネットワークの構成は40ノード x 2層とし、活性化関数にはtwisted tanhを用いた。対称関数には80個のChebyshev関数を用い、カットオフ距離は6 Åとした。
純Al

Mg 1原子

Mg 3原子

Mg 3原子

Mg 2原子

Mg 4原子

Mg 4原子

Intel Xeon Gold 6330(2CPU、56コア)を用いて、1構造につき15時間程度で教師データの作成が完了した。
最終的な教師データ数は、採択されたものと棄却されたものを合わせて、1構造につき5200個、合計で26000個になった。
NNPの作成#
- 作成した教師データを集め、新しくNNPを学習させた。
- ニューラルネットワークの構成は50ノード x 2層とし、活性化関数にはtwisted tanhを用いた。対称関数には100個のChebyshev関数を用い、カットオフ距離は6.5 Åとした。
- 学習の際、教師データの10%をテストデータとして分割し、1エポック毎にin-situでテストを行った。
教師データ作成時と同様のコアを用い、約15時間で10000エポックの学習が完了した。
合金系の融点の計算#
- 作成したNNPを用いてAl合金を模した系にNNP-MDを行い、融点を測定した。
- 構造には、教師データに用いたものと同じfcc Al結晶(mp-134)をx、y、z方向に5倍複製した500原子系を用いた。
また、この内の5%、10%をMg原子に置換したものも用いた。教師データではMg分率は3.1%、6.3%、9.4%、12.5%であり、5%と10%の分率は教師の範囲に含まれるものの、教師データに直接含まれてはいないものである。 - MD計算はNPTアンサンブルで行った。圧力は1 barに設定した。温度は1 Kで始まり、その後250 psかけて2000 Kまで上昇させた。
純Al

Al + Mg 5%

Al + Mg 10%

MD計算の結果得られた、温度に対する体積変化のグラフを下に示す。
Mg分率が上がるにつれて、体積変化の起こる温度が1198.2 K、948.7 K、775.4 Kと変化した。Al-Mg系の相図1によると融点はそれぞれ660、633、606 ℃であり、NNP-MDによって融点の大小関係が再現できた。
純Al
Mg分率に対する融点変化

Mg分率に対する融点変化

Al + Mg 5%
Al + Mg 10%

Al + Mg 10%

関連ページ#
- ニューラルネットワーク分子動力学システム Advance/NeuralMD
- 解析分野:ナノ・バイオ
- 産業分野:材料・化学
- Advance/NeuralMD 製品案内
- Advance/NeuralMD ドキュメント
-
M.Mezbahul-Islam et al., Journal of Materials, Vol.2014, 2014, 704283 ↩