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Ag-C系のNeural Network力場作成#

本記事は、黒川修准教授(京都大学大学院工学研究科)よりご提供頂いたデータを基に作成しています。

概要#

Neural Network力場を使用して、銀表面に吸着した炭素の挙動を解析する。 先ず、Ag(111)表面に複数のC原子が吸着した構造、および、Ag表面から少し内側の原子層における副格子点にC原子が配置した構造 に対応したNeural Network力場を作成する。作成したNeural Network力場を使用してMonte-Carloシミュレーションを実施して、Ag(111)表面近傍におけるC原子の分布を解析する。

①サンプル構造#

教師データの作成に当たっては、以下の22種のサンプル構造を使用した。

(1) FCC構造のAg結晶
スーパーセルモデル (32原子)
(2) ダイヤモンド
スーパーセルモデル (64原子)
(3) グラファイト
スーパーセルモデル (72原子)
(4) ウルツ鉱型合金
スーパーセルモデル (72原子)
(5) 岩塩型合金
スーパーセルモデル (64原子)
(6) ダイヤモンド型合金
スーパーセルモデル (64原子)
(7) Ag結晶 w/ 点欠陥
点欠陥の割合は10% (29原子)
(8) ダイヤモンド w/ 点欠陥
点欠陥の割合は10% (58原子)
(9) グラファイト w/ 10%欠陥
点欠陥の割合は10% (65原子)
(10) Ag結晶 w/ C@副格子
Ag : C = 4 : 1 (40原子)
(11) Ag結晶 w/ C@副格子
Ag : C = 2 : 1 (36原子)
(12) Ag(111)表面
スラブモデル (80原子)
(13) Ag(111)スラブ w/ C@副格子
Ag : C = 4 : 1 (100原子)
(14) Ag(111)スラブ w/C@副格子
Ag : C = 2 : 1 (108原子)
(15) Ag(111)表面 w/ C@top
Ag表面に3つのC原子 (83原子)
(16) Ag(111)表面 w/ C@bridge
Ag表面に3つのC原子 (83原子)
(17) Ag(111)表面 w/ C@hollow
Ag表面に3つのC原子 (83原子)
(18) Ag(111)/グラファイト
グラファイト被覆率100% (186原子)
(19) Ag(111)/グラファイト
グラファイト被覆率50% (153原子)
(20) Ag(111)/グラファイト
グラファイト被覆率25% (136原子)
(21) Ag(334)表面
ステップ面を含むスラブ (100原子)
(22) Ag(334)表面 w/ C原子@hollow
Ag表面に5つのC原子 (105原子)

②ランダム構造#

22種のサンプル構造を基にして、ランダム構造を生成した。ランダム構造の生成方法と数は以下の通りである。

  1. 22種のサンプル構造全てについて、原子座標をランダムに変位させた(変位幅:0.2Å) 。 → 4,400構造を生成

  2. Ag原子のみから成るサンプル構造 および C原子のみから成るサンプル構造については、EAM力場およびReaxFF力場を使用したMD計算のトラジェクトリーをランダム構造に含めた。 → 1,000構造を生成

  3. AgスラブモデルにC原子を吸着させた系 および 副格子としてC原子を含む系の一部(#13, 14, 19, 20, 22)については、強化学習によりランダム構造を生成した。 → 2,000構造を生成

合計7,400個の構造のうち、SCF計算が正常に収束して 且つ 力の最大値が10eV/Å以下のものをNeural Networkの学習に使用した。使用した構造数は4,744個、総原子数は630,469である。

③第一原理計算による教師データ生成#

Quantum ESPRESSOにて教師データを生成した。SCF計算における計算条件は以下の通りである。

#計算条件設定値
1擬ポテンシャルウルトラソフト型
(Ag.pbe-d-rrkjus.UPF, C.pbe-rrkjus.UPF)
2交換相関汎関数GGA-PBE
3スピン分極無し
4波動関数カットオフ25Ry
5電荷密度カットオフ225Ry
6k点サンプリングΓ点のみ
7スメアリングGaussian (0.01Ry)
8収束閾値10-6 Ry
9格子定数Materials Projectより取得した値を使用

④Neural Network力場の作成#

以下の仕様にてNeural Network力場を作成した。

  • 対称関数には、Chebyshev多項式を使用した。カットオフ関数はtanh3型、カットオフ半径は6Åである。対称関数の数は、動径成分で60個、角度成分で40個である。
  • Neural Networkの構造は 2層 x 50節で、活性関数はtanhである。
  • フルバッチアルゴリズムを適用し、L-BFGS法にて最適化を実施した。
  • 10000エポックの計算の後、エネルギーのRMSEは0.027eV/atom、力のRMSEは0.15eV/Åとなった。

⑤Monte-Carloシミュレーション#

作成したNeural Network力場を用いてMetropolis法によるMonte-Carloシミュレーションを実施した。

解析モデル

解析対象のモデルは、Ag(111)面の8 x 4√2スラブモデルである(下図)。一層当たりに64個の原子を含み、5層から成るモデルである。スラブモデル下部の2層についてはAg原子の座標を固定している。また、表面における全てのhollowサイトおよびtopサイト、第1層と第2層の間および第2層と第3層の間の全ての副格子点に「空孔サイト」を配置した。これらの空孔サイトは、Metropolis法においてC原子の座標と交換可能とする。

Metropolis法

当該モデルに対してMetropolis法を適用して、2000個の構造が生成されるまで計算を実施する。シミュレーション温度は、300Kである。原子を遷移させるオペレーションには、各原子の並進 および C原子と空孔サイトの交換を考慮した。原子の並進における移動幅は0.2Åとした。また、C原子の数を2~64個として、初期位置をtopサイトとした。topサイトは64箇所存在するため、C原子が64個より少ない場合には初期位置の設定には複数のバリエーションが存在する。そこで、各C原子数について 初期位置をランダムに16パターン生成して、それぞれのパターンについてシミュレーションを実施した。16パターンの平均値を計算結果に用いた。

シミュレーション動画

Monte-Carloシミュレーションの様子を動画にしたものを以下に示す。例として C原子数が16個、32個、64個の場合の動画を記載している。いずれの場合も、topサイトに配置されたC原子がAg内部の副格子に入り込んでいることが分かる。また、C原子が32個および64個の場合には、余剰のC原子がAg表面上にて互いに結合を作りつつあることが確認できる。
C原子=16個
C原子=32個
C原子=64個

C原子の位置

C原子の総数に対する 各位置に存在するC原子の個数を、下図のグラフに示す。Ag表面に存在するC原子を“at surface”、Agスラブモデルの第1層と第2層の間に存在するC原子を“at sub-surface”、第2層と第3層の間に存在するC原子を“at next sub-surface”と称する。こららのC原子の個数は、Monte-Carloシミュレーションにおける最終構造にて計数した。16パターンの異なる初期構造でのシミュレーションの平均値である。

Monte-Carlo計算におけるC原子の位置

  • C原子はsurfaceまたはnext sub-surfaceに存在しており、sub-surfaceにはほとんど存在しない。
  • C原子数が20個より小さい場合には、next sub-surfaceに優先的にC原子が入り込む。
  • C原子数が20個以上の場合には、next sub-surfaceのC原子数はやや減少する傾向にある。その代わりに、surfaceのC原子数が線形的に増大する。
  • next sub-surfaceに入り込めるC原子は8個程度が限界であり、それ以上の余剰のC原子は全てsurfaceに存在する。

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