シリコン単結晶の密度汎関数理論による計算#
ナノ材料解析統合GUI Advance/NanoLaboを用いたシリコン(Si)単結晶の密度汎関数理論(DFT)による電子状態計算の事例を紹介します。
単位胞(ユニットセル)の構造最適化を行い、格子定数や凝集エネルギーを理論的に予測します。また、バンド図や状態密度(DOS)の電子状態解析も行います。
紹介する事例は、モデルの作成からジョブの投入・結果の解析に至る一連のプロセスをすべてAdvance/NanoLabo上で行うことができます。
Note
本事例では電子状態計算のソルバーにQuantum Espresso1を使用していますが、別途ライセンスを取得することで、Advance/PHASEを用いた計算も可能になります。
計算モデル#
Advance/NanoLaboではMaterials Project2やPubChem3に登録された結晶構造・分子構造を検索する機能が提供されています。計算対象の物質の組成式などから、各データベースに登録された構造を検索し、計算モデルを作成することができます。
本事例ではシリコン単結晶を計算対象としているため、検索窓に「Si」と入力し構造検索を行っています。下図では複数の検索結果が表示されていますが、ここではエネルギー的に最も安定であるダイヤモンド型の結晶構造のプリミティブセルを選択しています。
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構造検索画面 |
SCF計算の計算条件 |
構造最適化#
計算モデルを作成した後、構造最適化計算を行います。構造最適化計算では与えられた格子構造を初期値として、各原子と格子に働く力が十分に小さくなるように構造緩和を行います。
本事例では4ステップで構造最適化の計算が収束し、最終的に得られた構造では初期構造と比較して格子定数4が0.1Åほど伸長していることが分かります。
計算により得られた構造を解析した結果、シリコン単結晶の格子定数は5.49Åとなりました。実験値は5.43Å6なので、実験値と計算値の相対誤差は1.0%となり、比較的よい一致を示しています。
また、最適化された結晶構造の全エネルギーと単原子の全エネルギーの差を取る5ことで、結晶の凝集エネルギーを求めることができます。本事例の計算では凝集エネルギーは5.71eVとなりました。実験値は4.63eV6であり、計算値では20%程度過大評価されています。
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構造最適化の条件 |
計算ジョブ投入 |
計算中のプロジェクト |
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結果一覧 |
エネルギー変化 |
格子定数の変化 |
電子状態解析#
構造最適化で得られたシリコン単結晶の単位胞について、状態密度(Density of States; DOS)およびバンド構造を計算することで、その電子状態についての解析を行うことができます。
DOSはあるエネルギーに許容される状態数が幾つ存在するかを示し、単位は状態数/エネルギーで表されます。本事例のDOSのグラフからはフェルミ準位の前後に0.7eV程度のバンドギャップがあることが分かります。バンドギャップの実験値は1.17eV6なので、実験値と比較すると過小評価されていることが分かります。
バンド図は横軸に波数ベクトルをとり、縦軸にエネルギー固有値をとってプロットしたものです。波数空間は3次元で表されるため、Γ点やX点といったブリルアンゾーン内の対称性のよい点を取り出し、その間をつなげることによりバンド図を描きます。本事例のバンド図では価電子帯および伝導帯にsp軌道に由来する幅広いバンドが確認されます。
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DOSの計算条件 |
DOS |
バンド図の計算条件 |
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バンド図 |
関連ページ#
- ナノ材料解析統合GUI Advance/NanoLabo
- 解析分野:ナノ・バイオ
- 産業分野:材料・化学
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- Advance/NanoLabo ドキュメント
- 第一原理計算ソフトウェア Advance/PHASE 製品案内
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Quantum Espressoは擬ポテンシャルと平面波基底を用いた密度汎関数理論の計算パッケージです。さまざまな系の計算に適用例があり、主に固体材料の分野で幅広く利用がなされています。 ↩
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Materials Projectは物質材料のオンラインデータベースです。カリフォルニア大学バークレー校のKristin Persson准教授らのグループによって運用されています。 ↩
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PubChemは分子のオンラインデータベースです。U.S. National Library of Medicineにより運用されています。 ↩
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グラフ中の格子定数はプリミティブセルの格子定数を表し、一般的なダイヤモンド型結晶のものとは異なる値になります。 ↩
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凝集エネルギー ↩
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C. Kittel: "キッテル固体物理学入門 (第8版) 上・下" (宇野 良清, 津屋 昇, 新関 駒二郎, 森田 章, 山下 次郎 共訳), 丸善 (2005) ↩↩↩