外部電場印加による過冷却水の結晶化の分子動力学シミュレーション#
ナノ材料統合GUI Advance/NanoLaboを用いた、外部電場下における水の分子動力学シミュレーションの解析事例について紹介します。 本事例では、過冷却水が外部静電場によって配向し、立方晶の氷へと変化する様子を調べました。
紹介する事例は、モデルの作成からジョブの投入・結果の解析に至る一連のプロセスをすべてAdvance/NanoLabo上で行うことができます。
計算モデル・計算スキームの設定#
分子の充填機能により、20Å×20Å×20Åのセルに256個の水分子を含むモデル(密度0.96g/cm3)を作成しました。統計アンサンブルとしては体積と温度が一定のNVTアンサンブルを採用しています。 また、水モデルにはTIP3Pを採用しました。Advance/NanoLaboでは、OPLS-AA力場を選択すると自動的にTIP3Pの力場パラメーターが水分子に対して割り当てられます。
本事例ではまず初めに、298Kで200ps間系を平衡化し、200psかけて250Kまで冷却した後、250Kで200ps間平衡化を行いました。その後、z方向に0.5V/Åの外部静電場Eを印加しながら600ps間のシミュレーションを行いました。 また、比較のために同様のモデル・スキームで電場を印加しない場合についてもシミュレーションを行いました。なお、シミュレーションの時間刻み幅は0.5fsとしました。
Advance/NanoLaboでは、Option画面から任意のスキームに対する電場印加の設定を行うことができます。
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Option画面における電場の設定 |
解析結果#
シミュレーションの結果得られた酸素-酸素間の動径分布関数G(r)(RDF)を以下に示します。 電場印加無しの場合に比べて、電場を印加している場合のRDFには長距離秩序が見られます。このことは、過冷却水が電場の印加によって結晶化していることを示しています1。
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E=0.0V/Åの場合のRDF |
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E=0.5V/Åの場合のRDF |
Advance/NanoLaboでは、Radial DistributionスイッチをONにするだけでRDFの計算・可視化を行うことができます。
Tips
Use's画面でcompute RDF all rdf 100 1 1 1 2 2 2 cutoff 10と入力することで、RDFの計算範囲をデフォルトの5Åから10Åに変更することができます2。
以下に示すように、最終的に得られた構造を比較すると、電場印加によって水分子が規則的に並んでいることがわかります。
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E=0.0V/Åの場合の構造 |
E=0.5V/Åの場合の構造 |
また、外部電場の下で最終的に得られた構造の一部を取り出したものを以下に示します。 図からは、水分子が水素秩序を伴った立方晶構造をとっていることがわかります。3
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水素秩序を伴った立方晶構造 |
関連ページ#
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SVISHCHEV, Igor M.; KUSALIK, Pater G. Crystallization of liquid water in a molecular dynamics simulation. Physical review letters, 1994, 73.7: 975. ↩
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GEIGER, Philipp, et al. Proton ordering of cubic ice Ic: Spectroscopy and computer simulations. The Journal of Physical Chemistry C, 2014, 118.20: 10989-10997. ↩