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実在気体モデルによる三次元長方形空間内の輻射解析#

概要#

本計算例では、Advance/FrontFlow/redのガス物性モデルを用いて、ベンチマーク問題における計算結果を文献と対照し、 それらのモデルを検証する目的です。 また、Advance/FrontFlow/redには、SLWモデルとWSGGモデルが実装されています。

SLWモデルとWSGGモデルについて、表 1にまとめています。

表 1.SLWモデルとWSGGモデル

モデル 説明
SLW (Spectral Line-Based Weighted Sum of Gray Gases) モデル ・実際にガスのスペクトル線(細かな波長ごとの吸収特性)の情報(有名なLBLデータベース HITRANを利用)に基づいてパラメータが決定されるため、高い精度で放射伝熱を予測できる。
・高精度であるが、WSGGモデルと比較すると、スペクトル線の情報を取り込むため、計算コストは高くなる傾向がある。
・放射性ガスの濃度や温度が大きく変化するような、非均質な燃焼場のシミュレーションに適する。
WSGG (Weighted Sum of Gray Gases) モデル ・実在ガスが数種のGrayガスにより構成されると仮定し、そのGrayガスの吸収係数と放射係数を計算しておき, 実際ガスの輻射を計算する。
・比較的単純な形式であるため、SLWモデルよりも計算負荷が低いのが大きな特徴。
・SLWモデルに比べると精度は劣りますが、ガスの全放射率や平均吸収係数を再現するように調整されるため、工学的には十分な精度を持つ場合が多い。

図1に示した解析モデルは、実在気体モデルの研究で良く知られるベンチマーク計算例[2-5]で 三次元長方形空間内、放射性ガス(H2O、CO2、およびその混合物)が充填してあり、黒色体壁面で囲まれています。 ガスの温度と濃度の分布を指定し、放射による熱生成量と壁面の熱流分布を計算します。 ここで、実在気体の放射物性の取り扱いでは灰色体近似が適用できないので、ガス物性モデルを利用します。

解析モデル

図 1. 解析モデル図

解析条件#

この解析条件を表 2にまとめています。

表 2.解析条件表

項目
計算コード Advance/FrontFlow/red
輻射モデル 有限体積法(FVM/DOM、Sn=4)
ガスモデル WSGG (Weighted-Sum-of-Grey-Gases), SLW (Spectral Line-Based WSGG)
境界条件 T_w = 300K 黒色体壁面
メッシュ 6面体格子、セル数 20×20×40

また、解析ケース毎のパラメータ設定を以下にまとめます。

パラメータ
パラメータ

図 2. ケース3の時のfとTcの分布

解析結果 ケース1、均質等温媒体#

図3は、ケース1、均質等温媒体の計算結果を文献[2-4]と比較したものです。 熱流束は、壁の中心付近(X=0)で最大30kW/m2となり、端に向かって減少する放物線に近い形状を示しています。 熱放射量は、壁の中心付近(X=0)では比較的均一な値となっています。

熱流束および熱放射量ともに、本計算結果を文献と比較すると、 本計算の 20×20×40 SLW は、文献[3]の 11×11×16 SLWおよび文献[2] SNB-benchmarkと 本計算の 20×20×40 WSGGは、文献[4]の 25×25×25 WSGGと 似た傾向を示していることがわかります。

ケース1解析結果図

図 3. ケース1 均質等温媒体、計算結果

解析結果 ケース2、非均質等温媒体#

図4は、ケース2、非均質等温媒体の計算結果を文献[2-3]と比較したものです。 熱流束は、壁の中心付近(X=0)で最大値をとり端に向かって減少する放物線に近い形状を示す傾向はケース1と同様ですが、 最大熱流束の値は低くなり最大22.6kW/m2となっています。 熱放射量は、ケース1は壁の中心付近(X=0)では比較的均一な値でしたが、ケース2では壁の中心付近(X=0)を谷として、山、谷と振動しています。

熱流束および熱放射量ともに、本計算結果を文献と比較すると、 本計算の 20×20×40 SLW と、文献[3]の 11×11×25 SLWおよび文献[2] SNB-benchmarkは、 多少の差はあるものの、ほぼ似たような傾向を示していることがわかり、SLWモデルは概ね適切結果を得ていると考えられます。 一方で中心線上の熱放射量分布で 文献[3]のWSGGが特に大きく外れています。 WSGGモデルは原則的に非均質媒体に適用しないことから、本計算ではWSGGモデルを使っていません。

ケース2解析結果図

図 4. ケース2 非均質等温媒体、計算結果

解析結果 ケース3、非均質非等温媒体、多種吸収性媒体混合(バーナー擬似)#

図5は、ケース3、非均質非等温媒体、多種吸収性媒体混合(バーナー擬似)の計算結果を文献[2-4]と比較したものです。 壁面 (X=1m,Y=0) における熱流束は、WSGGモデルが、文献ベンチマーク(SNB-Benchmark)や文献のSLWモデルと比較して、 中心付近で最大約24kW/m2と高めの値を示しています。 また、本計算の文献のSLWモデルと非常に近く、ベンチマークに対してやや低め(最大約20 kW/m2)の結果を示しています。

放熱量分布では、両モデルともZ=−1.5m付近で大きな極小値(絶対値で最大、約-500 kW/m3を示し、バーナーによる強い熱源の影響を示しています。 WSGGモデルは、極小値において文献ベンチマークと極めて近い結果を示しています。 本計算のSLWモデルも文献のSLWモデルと近い結果ですが、極小値はWSGGモデルの結果よりもわずかに大きくなっています。

ケース3解析結果図

図 5. ケース3 非均質等温媒体、計算結果

まとめ#

本解析では、Advance/FrontFlow/redで、実在気体モデルによるガス物性モデルをベンチマーク問題に適用、計算結果を文献と比較し、以下結果を得ています。
均質媒体 (Case 1): SLWおよびWSGGモデルの両方が、文献ベンチマークと極めて良好に一致し、高い精度を示しています。
SLWモデルは、すべてのケースで安定して良好な結果を示しています。
WSGGモデルは、非均質非等温媒体、多種吸収性媒体混合(バーナー擬似)の放熱量、極小値において文献ベンチマークと極めて近い結果を示しています。
解析ケース毎の適切なモデル選択が必要となります。

(*)参考文献:

[1] Denison MK, Webb BW, A Spectral Line-Based Weighted-Sum-of-Gray-Gases Model for Arbitrary RTE Solvers,   ASME-T J. Heat Transfer, 115(4), 1004-1012, 1993.
[2] Liu F., Numerical Simulations of Three-Dimensional Non-Grey Gas Radiative Transfer Using the Statistical Narrow-Band Model, 121(2), 200-203, 1999. (SNB)
[3] Coelho PJ, Numerical Simulation of Radiative Heat Transfer from Non-Gray Gases in Three-Dimensional Enclosures, Journal of Quantitative Spectroscopy & Radiative Transfer 74 307-328, 2002. (SNB, WSGG, SLW)
[4] Trivic DN, Modeling of 3-D Non-Gray Gases Radiation by Coupling the Finite Volume Method with Weighted Sum of Gray Gases Model, Int. J. Heat Mass Transfer, 47, 1367-1382, 2003. (WSGG)
[5] Liu F, Smallwood GJ, Gulder OL, Application of the Statistical Narrow-Band Correlated-k Method to Non-Grey Gas Radiation in CO2-H2O Mixtures: Approximate Treatments of Overlapping Bands, Journal of Quantitative Spectroscopy & Radiative Transfer 68 401-417, 2001. (SNB-CK)

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