液滴の壁面衝突#
概要#
液滴の壁面衝突現象は、様々な最先端技術や身近な製品に応用されています。
一つ目の例として、ディーゼルエンジンの燃料噴霧があります。エンジン内部では、燃料がシリンダーの壁やピストンの頭部に噴射されます。このとき、燃料の液滴が壁にどのように付着・飛散・蒸発するかが、燃焼効率や排出ガス(PMやすす)の量に直接影響を与えるため、非常に重要です。
二つ目の例として、消火剤の性能評価があります。噴霧式の消火器などが、燃えている対象物に対してどれだけ効率的に消火剤を付着させ、冷却・窒息効果を発揮できるかを評価するために、液滴の挙動を理解する必要があります。
三つ目の例として、トイレを清潔に保つための設計があります。洗浄水をいかに効率よく便器の表面に行き渡らせ、汚れを落としつつ、不要な飛散(スプラッシュ)を抑えるか、といった設計にもこの技術が応用されています。
この複雑な現象を正確に予測・再現するためには、以下の2つのプロセスを理解することが重要です。
1つ目は、衝突様式の違いによる衝突後の挙動です。液滴が壁に衝突した後の振る舞い(跳ね返る、付着して広がる、砕けて飛び散るなど)は、液滴の速度や大きさ、壁の状態によって大きく変化します。この衝突様式の違いと、それによって決まる結果を正確に予測することが大きな課題です。
2つ目は、壁面付着の再現です。衝突した液滴のうち、どれくらいの量が壁に液膜として付着するかを正確に再現することは、特にエンジンの燃焼解析などにおいて重要なテーマです。
解析手法#
液滴が壁に衝突した後の挙動は、主にウェーバー数 (We数) という物理量によって決まります。ウェーバー数は、液滴を「引き裂こうとする力(慣性力)」と、球状に「まとまろうとする力(表面張力)」の比率を表します。ウェーバー数が小さい場合、表面張力が勝ち、液滴は形を保とうとします。一方で、ウェーバー数が大きい場合、慣性力が勝ち、液滴は激しく変形し、分裂しやすくなります。
このウェーバー数の値により、衝突後の現象は主に3つのパターンに分類されます。
・弾性衝突(Wein <5):ウェーバー数が非常に小さい場合です。液滴は表面張力でまとまる力が強く、スーパーボールのように壁で跳ね返ります。
・飛び散り(5< Wein <10):ウェーバー数が中程度の場合です。慣性力の影響が強くなり、液滴は壁に叩きつけられて、粉々に砕け、飛散します。
・付着(10 < Wein):ウェーバー数が大きい場合です。液滴は壁にべちゃっと張り付き、液膜を形成します。
下の図は、衝突前のウェーバー数(Wein)と衝突後のウェーバー数(Weout)の関係を表しており、どの領域でエネルギーがどう変化するかをモデル化しています。
図 1. ウェーバー数によるエネルギー変化と液滴挙動の違い
以下は、これら複雑な物理現象をモデル化するための物理モデルを表しています。
図 2. 液滴の速度ベクトル(v1)や角度(θ1,Φ)
ここで、衝突後の液滴の速度ベクトル(v1)や角度(θ1,Φ)を計算するために以下のようなモデルを使用します。
式中に「一様なランダム値P」が含まれているのは、飛び散り(スプラッシュ)現象が持つランダムで確率的な性質をモデルに組み込み、より現実的なシミュレーションを行うためです。
解析結果#
ウェーバー数の違いによる液滴の壁面衝突挙動の違いの解析結果を動画ファイルでアドバンスソフト株式会社の公式Youtubeよりご覧いただけます。
動画上からウェーバー数が小、中、大となっており、ウェーバー数が小さい(粒径が小さい)場合は液滴が弾性衝突のように跳ね返り、ウェーバー数が大きくなるにつれて壁面に付着したり、飛散したりと、挙動が大きく変化する様子が確認できます。
ウェーバー数の違いによる液滴の壁面衝突挙動の違い#
まとめ#
液滴の壁面衝突過程を再現するために、入射粒子の衝突様式に応じて挙動を決めるモデルを導入し、実現象に近い振る舞いが再現できました。 このような現象の解明は、ディーゼルエンジンの燃料噴霧や、消火剤の散布、インクジェットプリンタなど、様々な工業製品の設計・評価において役立てることができます。 今後の取り組みとしては、壁面に生じる液膜の評価、液滴分裂モデル、微粉炭燃焼モデルなどが挙げられます。
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- 流体解析ソフトウェア Advance/FrontFlow/red
- 解析分野:流体
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