希土類4f電子のopen-core法による第一原理解析:強磁性半導体GdN#

希土類元素の 4f 電子は、磁石材料や磁性半導体の機能を担う重要な役割を持っています。しかし、原子核の近くに強く局在しているため、標準的な密度汎関数理論(LDA/GGA)では自己相互作用誤差によって準位の位置が大きくずれてしまいます。その結果、本来は深いエネルギー位置にあるべき占有 4f 軌道が価電子帯の上端近くに、空の 4f 軌道が伝導帯の中に現れるという問題が生じます。本事例では、この問題を回避する実用的な第一原理手法である open-core(開殻凍結コア)法を、第一原理計算ソフトウェア Advance/PHASE (ver.5.0) を用いて強磁性半導体 GdN に適用し、4f を価電子として扱う通常の計算と比較しながら、バンド端のスピン分裂、交換相互作用とキュリー温度、さらに meta-GGA(TB-mBJ)によるバンドギャップの評価が、経験的パラメータなしにどこまで高精度に得られるかを示します。最後に、4f がバンド端そのものである EuO を対照に取り上げ、手法の適用範囲の境界を確認します。
Keywords: 第一原理計算 (DFT), 希土類, ランタノイド, 4f電子, open-core法, 凍結コア, 強磁性半導体, GdN, EuO, スピン分極, 交換分裂, 交換相互作用, キュリー温度, TB-mBJ
open-core 法とは#
open-core 法は、部分占有された 4f 殻を凍結コアに含めて自己無撞着計算の外に置き、Hund 則で決まるそのスピンモーメントだけを、交換相関汎関数に入るスピン密度に加える手法です。価電子は 4f 殻がつくる交換場を感じますが、4f 準位そのものは一電子スペクトルに現れません。Hubbard のような経験的パラメータを必要としません。希土類磁石材料の第一原理計算では、Nd や Sm の 4f をスピン分極したコア電子として扱うこの近似が標準的に用いられ、磁化や磁気異方性の予測に成果をあげています [1]。表1に、open-core 法の特徴と適用可能な物性の関係をまとめます。
表1. open-core 法の特徴と適用性
| 評価対象・物性 | open-core 法における取り扱いと適用性 |
|---|---|
| 磁気モーメント | 高精度に評価可能。凍結した 4f 殻のスピンモーメント(Hund則)が厳密に反映され、自己無撞着計算の途中で局所解に陥ることなく安定して求まります。 |
| 磁気配列間の全エネルギー差 交換相互作用・キュリー温度 | 評価可能。各サイトの 4f スピンモーメントの向きを指定して、強磁性配列や反強磁性配列を安定して計算・比較できます。 |
| バンド端・光学ギャップ | 系に応じて適用。4f 準位がバンド端から離れている系(GdNなど)では価電子・伝導帯端を適切に記述できます。4f がバンド端そのものを構成する系(EuOなど)では留意が必要です。 |
| 4f 準位の位置 4f が関与する光学遷移・分光 | 対象外(適用不可)。4f 電子をコアとして扱うため、4f 軌道自体のエネルギー準位や励起スペクトルを直接議論する場合は LDA+U や DMFT などの手法を用います。 |
図1に、対照的な 2 つの物質を示します。2 価の Eu2+ をもつカルコゲナイド(EuO、EuS など)では占有 4f が陰イオン p バンドの上に位置しており [2]、3 価の Gd3+ をもつ GdN では 4f がバンド端から離れています [3]。どちらに当たるかは物質ごとに確かめる必要がありますが、4f がバンド端にある系でも、表1の上 2 つ——磁気モーメントと交換相互作用——は同様に評価できます。実際、Eu 系プニクタイドの常磁性相のバンド計算で Eu の 4f をコア電子として扱った例が報告されています [4]。ただし、4f そのものがバンド端を形成しており、かつバンドギャップを議論したい場合に本手法の適用には注意が必要です。

図1. 4f 準位とバンド端の関係。(a) EuO では占有 4f が価電子帯上端そのものです。実験の光学ギャップ 1.12 eV は 4f → 5d 遷移とされています [2]。4f をコアに移すとこの始状態が消えるため、計算が与えるギャップ(O 2p → Eu 5d)は実験と別の量になります。(b) GdN では、実験と理論の両面から、占有 4f も空の 4f も価電子帯上端から約 6 eV 離れていると報告されています [3]。バンド端は N 2p と Gd 5d が作っており、4f を除いてもバンド端は変わりません。
対象と計算条件#
図2(a) に計算対象となる GdN の岩塩型構造を示します。格子定数は実験値 = 4.974 Å に固定しました(原子座標は対称性から一意に決まります)。図2(b) が open-core 法の考え方です。凍結した 4f7 殻から、Hund 則で決まる不対電子数 (Gd3+ の 4f7 では 7)を重みとする磁化密度 を作り、
のように、交換相関汎関数に入るスピン密度にのみ加えます。Hartree ポテンシャルにも全電子数にも手を加えないので電荷中性は保たれ、価電子だけが 4f 殻の交換場を感じます。運動エネルギー密度を必要とする meta-GGA(TB-mBJ)を用いる場合は、凍結 4f 殻の運動エネルギー密度も同じ重みで加えられます。Advance/PHASE では、4f 電子をコアに含めた擬ポテンシャルを用いることで、簡便に open-core 計算を実行できます。

図2. (a) GdN の岩塩型結晶構造(、 = 4.974 Å)。(b) open-core 法の模式図。4f7 殻は凍結コアとして自己無撞着計算の外に置かれ、そのスピンモーメントだけが交換相関汎関数に入るスピン密度に加えられます。価電子には 4f が含まれないため、Hubbard を与える必要がありません。
計算条件を表2にまとめます。自己無撞着計算により基底状態の電子密度を求め、高対称ラインに沿ったバンド構造および磁気的相互作用を評価しました。
表2. GdN の計算条件
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| 擬ポテンシャル | PAW法(Gd:4f 凍結版、4f 価電子版の2種類を比較) |
| 交換相関汎関数 | GGA-PBE(バンドギャップ評価には TB-mBJ も併用) |
| スピン分極 | 考慮あり(強磁性/反強磁性) |
| カットオフエネルギー | 波動関数 36 Ry / 電荷密度 324 Ry |
| k 点サンプリング | 自己無撞着計算:10×10×10 バンド構造:W–L–\(\Gamma\)–X–W–K 交換相互作用:2 f.u. セル(8×8×6 / 6×6×6) |
| 結晶構造 | 岩塩型(\(a\) = 4.974 Å 固定) |
| 価電子数(Gd 1 原子あたり) | 4f 凍結版 11 / 4f 価電子版 18 |
計算結果#
状態密度:4f をどこに置くかで描像が一変する#
図3に、多数スピンの N 2p 価電子帯上端を原点としたスピン分解状態密度を示します。

図3. GdN のスピン分解状態密度。(a) 4f を価電子として扱った通常のスピン分極 GGA 計算。占有 4f7↑ が −3.3 eV に、空の 4f↓ が +2.0 eV に鋭い巨大ピークとして現れ、後者は Gd 5d 伝導帯に重なっています。(b) open-core (GGA) 計算。4f はスペクトルから消え、N 2p 価電子帯と Gd 5d 伝導帯だけが残ります。
実験では、GdN の占有 4f も空の 4f も価電子帯上端から約 6 eV 離れています [3]。図3(a) の通常の GGA 計算では、これらの準位が占有側で約 3 eV 浅く、空側で約 4 eV 低く見積もられており、局在 4f 電子に対する自己相互作用誤差がそのまま現れています。その結果、空の 4f↓ が Gd 5d 伝導帯の状態密度に重なり、浅くなった占有 4f↑ が N 2p と混成して N 2p 価電子帯自身が 1.15 eV もスピン分裂します( 点)。4f をコアに凍結すると、いずれも解消します(図3b)。
バンド端とスピン分裂:実験と同じ量を比べる#
GdN の光学吸収端は X 点での直接遷移(N 2p → Gd 5d)で、強磁性相(6 K)で 0.90 eV、常磁性相(300 K)で 1.31 eV と報告されています [5]。open-core 計算が与えるのはまさにこの遷移なので、直接比較ができます。図4に open-core 計算のバンド構造を示します。

図4. open-core (GGA) 計算による GdN のバンド構造(W–L––X–W–K、原点は多数スピンの N 2p 上端)。4f 殻をコアに凍結したことで、価電子帯(N 2p)と伝導帯(Gd 5d)が明瞭に分離されています。価電子帯上端は 点、伝導帯下端は X 点です。多数スピン(実線)では GGA 特有のギャップ過小評価により伝導帯下端が価電子帯上端より 0.17 eV 低く重なり(赤の印)、少数スピン(破線)には 0.51 eV のギャップが開いています。
図4の多数スピン側では、Gd 5d 伝導帯の下端が N 2p 価電子帯の上端より低くなって両バンドがわずかに重なり、半金属的(ハーフメタル)な状態となっています。実験の GdN は両スピンとも半導体ですので、これは GGA がバンドギャップを過小評価する既知の傾向によるものです(4f を価電子として を与える LSDA+U 計算でも、平衡格子定数では GdN が同様にハーフメタルとして現れることが報告されています [6])。後述のように、このギャップの絶対値は meta-GGA(TB-mBJ)を用いることで半導体ギャップとして正常に開きます。ここではまず、open-core 法が本来高精度に捉えるべき量であるバンド端のスピン分裂(交換分裂)に着目します。
表3. GdN の電子構造・バンド特性および磁気モーメントの比較
| 評価項目・物性 | 実験値 | 4f を価電子 (通常の GGA) | open-core (GGA) | open-core (TB-mBJ) |
|---|---|---|---|---|
| 全スピン磁気モーメント | 約 7 \(\mu_\text{B}\)/Gd [3] | 7.00 \(\mu_\text{B}\) | 7.00 \(\mu_\text{B}\) | 7.00 \(\mu_\text{B}\) |
| X 点 バンド端スピン分裂 \(\Delta\) (少数スピン − 多数スピン) | 0.82 eV [5] ※ | 1.37 eV 過大評価(1.7倍) | 0.68 eV 良好に一致(0.8倍) | 0.16 eV 過小評価 |
| X 点 バンド状態 (多数スピン側) | ギャップ 0.90 eV [5] | バンド重なり 0.41 eV (ギャップなし) | バンド重なり 0.17 eV (ギャップなし) | ギャップ 1.01 eV 半導体ギャップが開く |
| X 点 バンド状態 (少数スピン側) | ギャップ 1.72 eV ※ | ギャップ 0.96 eV | ギャップ 0.51 eV | ギャップ 1.18 eV |
| 手法の特徴と主な役割 | — | 4f–2p 混成の誤差によりスピン分裂を過大評価 | 磁気モーメント・スピン分裂・交換定数を高精度に評価 | バンド重なりを解消し、良好なギャップ絶対値を評価 |
※ 実験値の少数スピンギャップ(1.72 eV)およびスピン分裂(0.82 eV)は、文献 [5] の常磁性相ギャップ(1.31 eV)と強磁性相多数スピンギャップ(0.90 eV)の関係から見積もられた値です。
表3に各手法の計算結果と実験値の比較をまとめました。全スピン磁気モーメントはいずれの手法でも 7 となりますが、バンド端のスピン分裂()において手法間の決定的な差が現れます。通常の GGA 計算では実験値の 1.7 倍(1.37 eV)に過大評価されるのに対し、open-core(GGA)では 0.68 eV と実験値(0.82 eV)の約 8 割をよく再現しています。バンド端の内訳を図5に示します。

図5. (a) open-core (GGA) 計算による各バンド群のエネルギー範囲(原点は多数スピンの N 2p 上端)。右の数値は、4f 殻の局在交換場によって Gd 5p・5s 半芯準位に誘起されたスピン分裂です。(b) X 点における伝導帯下端(Gd 5d)と価電子帯上端(N 2p)の相対エネルギー差と、そのスピン分裂 。負の領域(薄赤色)は伝導帯下端が価電子帯上端を下回るバンド重なり(ギャップ消失)に対応します。
スピン分裂に大きな差が生じた理由は、軌道ごとのエネルギー準位の振る舞いを分析することで明確に理解できます。ギャップのスピン分裂 は、伝導帯(Gd 5d)のスピン分裂から価電子帯(N 2p)のスピン分裂を差し引いたものです。X 点で見ると、伝導帯のスピン分裂は通常の GGA 計算(+0.73 eV)と open-core 計算(+0.67 eV)でほぼ同等です。決定的な違いは価電子帯にあります。通常の GGA 計算では、自己相互作用誤差によって浅く現れた占有 4f 軌道が N 2p と過剰に混成し、本来分裂すべきでない N 2p 価電子帯を 0.64 eV も大きくスピン分裂させてしまいます。この不要な混成が差し引きで実質的な足し算(0.73 − (−0.64) = 1.37 eV)となり、スピン分裂の著しい過大評価を引き起こしていました。open-core 法では 4f 殻をコアに凍結することでこの人為的な混成が排除され、価電子帯の分裂が解消(0.00 eV)されるため、伝導帯の本来のスピン分裂(0.67 eV)のみが正確に取り出されます。
半芯準位に現れる交換場#
凍結した 4f 殻がつくる交換場が価電子系に正しく働いていることは、4f 軌道と動径方向に重なる Gd の半芯準位(Gd 5s, 5p)のスピン分裂からも確認できます(図5a)。本解析では 点において Gd 5s が 3.07 eV、Gd 5p が 2.32 eV の明瞭なスピン分裂を示しました。これは 4f を陽に解いた計算値(3.03 eV、2.27 eV)と非常によく一致しており、open-core 近似によっても局在交換場が正確に再現されていることを裏付けています。一方、Gd サイトから離れた N 2p 価電子帯の分裂は 点で 0.13 eV と小さく、交換場が Gd サイトに強く局在している物理的描像とも整合します。
交換相互作用とキュリー温度#
open-core 法の大きな強みは、4f モーメントの向きを外部から直接指定できる点にあります。各 Gd 原子の凍結 4f モーメントの向きを設定することで、強磁性配列や反強磁性配列を安定して作り分け、全エネルギー差から Heisenberg 模型の交換相互作用を高精度に算出できます。
面心立方の Gd 副格子について、最近接 12 サイト()と次近接 6 サイト()を考えます。古典スピン()の Heisenberg 模型
では、強磁性(FM)、(001) 面が交互に反転する AFM-I、(111) 面が交互に反転する AFM-II の 3 配列に対して符号和がそれぞれ 、、 となり、
として決まります。結果を図6に示します。

図6. (a) 3 つのスピン配列の全エネルギー(Gd 1 個あたり、強磁性を基準)。AFM-I は正方晶セル、AFM-II は菱面体セルを用い、同一セルでの強磁性計算との差をとっています。(b) (a) の 、 から求めた GdN のキュリー温度。平均場近似と乱雑位相近似(RPA)の値を実験値 [3] と並べています。
強磁性配列が両方の反強磁性配列より低く、Gd 1 個あたり AFM-I に対して 16.9 meV、AFM-II に対して 15.1 meV 安定でした。ここから
が得られます。いずれも正(強磁性的)で、最近接相互作用が支配的です。従来のLSDA+U計算などでは が負(反強磁性的)となる報告も多くありましたが、近年の非経験的なHSEハイブリッド汎関数を用いた計算でも が正となることが示されており [3]、本手法の結果はこれと類似した振る舞いを示しています。キュリー温度は平均場近似で 138 K、乱雑位相近似(RPA)で 106 K となり、実験値(良質な試料で約 70 K [3])に対して過大評価となるものの、同一オーダーでの定性的な一致が得られます。
なお、k 点サンプリングに対する交換定数の依存性も十分に小さい(変動 4% 以内)ことを確認しています。ただし、GdNの交換相互作用は格子定数(体積)に対して敏感に変化することが知られており [3]、実際の材料設計においては実験格子定数での評価だけでなく、格子歪みの影響などの考慮も必要になる場合があります。
ここでのポイントは、経験的パラメータを一切使わずに、正しい符号・正しい桁の交換定数とキュリー温度が得られていることです。「候補材料が強磁性を示すか、\(T_\text{C}\) はおよそ何 K か」を効率的に探索する磁性材料スクリーニングに有効です。
ギャップの絶対値:TB-mBJ との組み合わせ#
GGA 計算に残る課題であったバンドギャップ過小評価(バンドの重なり)を改善するため、半導体のギャップ評価に広く用いられる TB-mBJ ポテンシャルを適用しました。希土類窒化物では、4f を準原子的に扱ったうえで 2p → 5d のギャップを mBJ で求める研究 [7] も報告されています。Advance/PHASE の open-core 機能は、凍結 4f 殻のスピンモーメントをスピン密度だけでなく運動エネルギー密度にも適切に反映するため、meta-GGA である TB-mBJ と組み合わせて用いることが可能です。
まず、4f を価電子として解いた計算に TB-mBJ を適用した場合(図7)は、スピンごとに見ればギャップが開くものの、スピン分裂が −0.41 eV と符号が逆転してしまい、実験(+0.82 eV)と一致しません。また、少数スピンの伝導帯下端が多数スピンの価電子帯上端の高さまで下がるため、系全体としてのギャップもほぼゼロになってしまいます。

図7. 4f を価電子として扱い TB-mBJ を用いた GdN のバンド構造( = 1.327、経路と原点は図4と同じ)。占有 4f↑(−2.7〜−1.9 eV)と空の 4f↓(+2.6〜+4.1 eV)が平坦なバンドとして現れます。スピンごとにはギャップが開くものの、少数スピン(破線)の伝導帯下端が多数スピン(実線)の価電子帯上端の高さまで下がり、系全体のギャップはほぼ 0 となります。
これに対し、open-core 計算に TB-mBJ を適用した結果を図8に示します。両スピンともに N 2p と Gd 5d の間に明瞭なギャップが開き、X 点の直接ギャップは多数スピンで 1.01 eV、少数スピンで 1.18 eV(平均 1.10 eV)となり、実験の常磁性ギャップ(1.31 eV)に迫る良好な計算結果が得られます。系全体でも、 点の N 2p 上端と X 点の Gd 5d 下端の間に 0.81 eV の間接ギャップが開いており、GGA で生じていたバンドの重なりが解消されています。

図8. open-core 計算に TB-mBJ を用いた GdN のバンド構造( = 1.341、経路と原点は図4と同じ)。両スピンにギャップが開き、 点の N 2p 上端と X 点の Gd 5d 下端の間に 0.81 eV の間接ギャップが開きます(X 点の直接ギャップは表3)。一方、多数スピン(実線)と少数スピン(破線)のバンドは近接しており、X 点でのギャップのスピン分裂は 0.16 eV となります。
ただし、TB-mBJ では 4f 殻がつくる交換場が弱く伝わる傾向があり、X 点のスピン分裂は 0.16 eV にとどまります。これは TB-mBJ の交換ポテンシャルに含まれる運動エネルギー密度依存項が、強く局在した 4f 殻に対して反発的に働き、交換場を引き下げる効果を一部相殺するためです。したがって、表3に整理した通り、スピン分裂や交換相互作用などの磁気的性質の評価には GGA による open-core 計算が適しており、バンドギャップの絶対値評価には TB-mBJ の併用が有効であるという相補的な関係が成り立ちます。
EuO:適用範囲の境界#
同じ open-core 法を、2 価の Eu2+ をもつ強磁性半導体 EuO(岩塩型、 = 5.144 Å、 = 69 K [2])に適用します。Eu2+ も 4f7()なので、共線近似の前提は GdN と同じく、ほぼ厳密に成り立ちます。図9に状態密度を示します。

図9. EuO のスピン分解状態密度。(a) 4f を価電子として扱った通常のスピン分極 GGA 計算。多数スピンの 4f7 による鋭い巨大ピークがフェルミ準位に張り付き、Eu 5d 伝導帯と重なって金属になっています。(b) open-core 計算。4f はスペクトルから消え、O 2p と Eu 5d の間に 2.37 eV のギャップが開きます。
【得られるもの】4f を価電子として扱う通常の計算では、多数スピン 4f7 バンドがフェルミ準位に位置して Eu 5d 伝導帯と重なり、EuO は金属として計算されます(全モーメントも 6.995 と非整数)。open-core に切り替えると全モーメントは 7.00 となり、Eu 5d 伝導帯のスピン分裂は X 点で 0.73 eV、 点で 0.60 eV となります。スピン分解 X 線吸収分光では、EuO の伝導帯の交換分裂は「0.6 eV に達する」と報告されており [8]、計算値とよく一致します。すなわち表1に示した磁気モーメントや交換分裂といった磁気的物性は、EuO でも同様に高精度に得られます。
【得られないもの】実在の EuO の準位は上から Eu 5d(伝導帯) > 占有 Eu 4f(価電子帯上端) > O 2p の順に並んでおり [2]、実験の光学ギャップ 1.12 eV は最上部の占有 4f から 5d への遷移です。open-core 法は 4f をスペクトルから除くため計算上の価電子帯上端は O 2p となり、得られる 2.37 eV は O 2p → Eu 5d という別の遷移のギャップです。EuO の光学ギャップや 4f 準位の位置そのものを議論したい場合は、4f を価電子に残す LDA+U や DMFT が必要です。
なお、構造について、EuO の平衡格子定数は open-core で 4.971 Å、4f 価電子計算で 5.086 Å と、いずれも実験値 5.144 Å を下回りました(それぞれ −3.4%、−1.1%)。この系では、4f をコアに凍結したことで平衡体積の精度は上がりませんでした。
適用上の注意点#
どの物性が得られ、どの物性が対象外かは表1に、4f がバンド端にある系での扱いは前節の EuO に示したとおりです。ここでは、実際に計算を組み立てる際に判断が要る点を挙げます。
- ギャップの絶対値は交換相関汎関数の精度で決まります。GGA は半導体ギャップを系統的に過小評価し、GdN でも多数スピンでバンドが重なりました。TB-mBJ を併用するとギャップは開きますが、TB-mBJ は 4f 殻の交換場を GGA より弱く(半芯準位では逆向きに)伝えます。スピン分裂や交換相互作用などの磁気的性質の評価には、交換場が直接反映される GGA(open-core)の利用が適しています。
- スピンのみを扱う共線近似です。加えられるのは Hund 則によるスピンモーメントだけで、軌道角運動量とスピン軌道相互作用は含まれません。 の Gd3+・Eu2+(4f7)ではほぼ厳密ですが、Sm3+(4f5)や Nd3+(4f3)のように大きな軌道モーメントを持つ系では、磁気モーメントの絶対値や磁気異方性に別途の配慮が要ります。希土類磁石の計算では、4f の軌道モーメントを Hund 則と Landé の 因子から与え、磁気異方性は結晶場パラメータを介して評価する扱いが用いられています [1]。
- 半芯準位は強い交換分裂を受けます。4f と動径的に重なる Gd 5s・5p は数 eV のスピン分裂を受けます(本計算では 5s で 3.07 eV)。4f を陽に解いた計算でも同等の分裂が生じるため open-core 法固有の問題ではありませんが、半芯準位の位置を議論する際には留意してください。
まとめ#
第一原理計算ソフトウェアAdvance/PHASE の open-core 機能を用いて、強磁性半導体 GdN の電子状態と磁性を解析しました。4f をコアに凍結すると、通常の GGA 計算で Gd 5d 伝導帯に重なっていた空の 4f と、N 2p 価電子帯の 1.15 eV に及ぶ不自然なスピン分裂が解消され、全スピンモーメント 7 、光学ギャップのスピン分裂 0.68 eV(実験 0.82 eV)が得られ、さらに 4f モーメントの向きを指定した磁気配列の比較から、交換相互作用 = 1.00 K、 = 0.19 K とキュリー温度 106 K(実験値約 70 K)が経験的パラメータなしに得られました。バンドギャップの絶対値については、GGA では過小評価によりバンドの重なりが生じるものの、TB-mBJ を併用することで X 点の平均で 1.10 eV(実験 1.31 eV)へと改善します。一方、TB-mBJ は 4f 殻の交換場を弱く伝えるため、スピン分裂と磁性の評価には GGA の open-core 計算が適しています。EuO のように占有 4f がバンド端にある系では、open-core が与えるギャップ(O 2p → Eu 5d)は実験の光学ギャップ(4f → 5d)とは別の遷移になりますが、磁気モーメントと伝導帯の交換分裂は同様に高精度に得られます。open-core 法は、希土類化合物の磁性とスピン分極した電子構造を、Hubbard のような経験的パラメータなしに低コスト・高安定に計算する手法であり、強磁性半導体のみならず希土類磁石材料など、磁性が主要なターゲットとなる多様な材料開発に広く活用できます。
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お問い合わせ参考文献#
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- 産業分野:材料・化学