二次元材料のバンドギャップ予測:meta-GGA汎関数による高精度化#

原子数層の厚みしか持たない二次元(2D)材料は、トランジスタ、光検出器、発光素子などへの応用が期待されており、素子設計においては、正確なバンドギャップの評価が不可欠です。しかしながら、標準的に用いられる GGA 汎関数(PBE)はバンドギャップを大きく過小評価するため、実験と比較できる精度を得るには、ハイブリッド汎関数(HSE06)や GW 近似といった計算コストの大きい手法を使うのが一般的なアプローチとなってきました。こうした課題を解決する汎関数として、バンドギャップの予測に的を絞って設計された meta-GGA 交換汎関数 TASK と、その低次元材料向け改良版 mTASK が注目されています。本解析では、第一原理計算ソフトウェア Advance/PHASE (ver.5.0) を用いて、代表的な2D遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)単層 5種のバンドギャップを PBE / rSCAN / TASK / mTASK の4汎関数で計算しました。得られたギャップを実験値・G0W0・HSE06 と比較し、meta-GGA がどの程度の改善をもたらすのか、そしてどのような場面で使えるのかを示します。
Keywords: 第一原理計算 (DFT), バンドギャップ, meta-GGA, TASK, mTASK, libxc, 二次元材料, 遷移金属ダイカルコゲナイド (TMD), MoS2, ZrS2, ZrSe2, HfS2, HfSe2
なぜ meta-GGA でバンドギャップが改善するのか#
PBE のような semilocal 汎関数がバンドギャップを過小評価する根本的な原因は、交換相関ポテンシャルに微分不連続性が欠如していることにあります [1]。正しいギャップを与えるには、ポテンシャルが不連続な乗算演算子であるか、あるいは非局所的な演算子である必要があります。
meta-GGA は、電子密度とその勾配に加えて運動エネルギー密度 τ(r) = (1/2) Σi |∇ψi(r)|2 を用いて構成される汎関数です。これを一般化Kohn-Sham(gKS)スキームで解くと、τ についての微分 vτ = ∂exc/∂τ がハミルトニアンに
V̂τ ψ = −(1/2) ∇ · ( vτ(r) ∇ψ )
という微分演算子の形で入ります。これは局所的な乗算演算子ではなく、価電子帯と伝導帯に異なる影響を与えます。TASK [2] は、交換増強因子のこの τ 依存性ができるだけ強くなるように設計された交換汎関数であり、mTASK [3] は遮蔽の弱い低次元材料に合わせてその非局所性をさらに強めたものです。どちらも単独では相関項を持たないため、文献 [3] では LDA(PW92)の相関汎関数と組み合わせて用います。
この設計がどの程度有効であるかは、大規模なベンチマークで確かめられています。298種の2D材料を対象とした文献 [4] の評価では、G0W0 を基準とした平均絶対誤差が PBE の 1.50 eV に対して TASK で 0.66 eV、mTASK で 0.52 eV となり、ハイブリッド汎関数 HSE06 の 0.78 eV を下回ります。交換相関エネルギー汎関数のなかでは、mTASK がこのベンチマークで最も小さい誤差を与えています。

図1. 298種の2D材料に対するバンドギャップの平均絶対誤差(G0W0 基準)。文献 [4] の Table I から5つの汎関数を抜粋しました(同表にはこのほかの汎関数、およびエネルギー汎関数を持たないポテンシャル近似の結果も掲載されています)。
計算モデル#
対象は TMD 単層の2つの代表的な構造型に属する5材料です。1H相は金属が三角プリズム配位をとり、単層では K 点に直接ギャップを持ちます。発光材料として広く研究されている MoS2 がこの型で、単層化にともなって間接ギャップから直接ギャップに変わることが知られています [5]。1T相は金属が八面体配位をとり、Γ点の価電子帯上端と M 点の伝導帯下端による間接ギャップ半導体になります。Zr・Hf のジカルコゲナイドがこの型です。

図2. 2つの構造型の上面図と側面図(赤線は単位胞)。1H相ではカルコゲンが金属を挟んで上下同じ面内位置に、1T相では異なる面内位置に来ます。ZrSe2・HfS2・HfSe2 は ZrS2 と同じ 1T 構造です。
表1. 対象とした単層材料(面内格子定数はバルク相の実験値、層内の構造はPBEで最適化)
| 材料 | 構造型 | 面内格子定数 a (Å) | 金属–カルコゲン 結合長 (Å) | 層厚 (Å) |
|---|---|---|---|---|
| MoS2 | 1H(三角プリズム) | 3.160 | 2.410 | 3.149 |
| ZrS2 | 1T(八面体) | 3.660 | 2.571 | 2.930 |
| ZrSe2 | 1T(八面体) | 3.770 | 2.700 | 3.195 |
| HfS2 | 1T(八面体) | 3.635 | 2.548 | 2.890 |
| HfSe2 | 1T(八面体) | 3.748 | 2.679 | 3.157 |
表2. 計算条件
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| 交換相関汎関数 | PBE / rSCAN / TASK / mTASK (後3者は libxc [6] との連携により利用) TASK・mTASK は交換汎関数のため、文献 [3] と同じく LDA(PW92)の相関汎関数と組み合わせています |
| 擬ポテンシャル | PAW |
| カットオフエネルギー | 波動関数 30 Ry / 電荷密度 230 Ry |
| k点サンプリング | SCF計算:12×12×1 バンド構造:Γ–M–K–Γ 経路上 88 点 |
| 単位胞の c 軸長 | 20 Å(真空層は約 17 Å) |
| 構造 | 面内格子定数はバルク相の実験値に固定し、 層内のカルコゲン位置を PBE で最適化 |
| スピン分極 | 考慮なし(いずれも非磁性半導体のため) |
| スピン軌道相互作用 | 考慮なし |
単層MoS2・mTASK について、カットオフエネルギーを 30 Ry から 40 Ry(電荷密度は 230 Ry から 280 Ry)に増やした計算と、単位胞の c 軸長を 20 Å から 25 Å に増やした計算を行いました。いずれの場合もバンドギャップの変化は 1 meV 未満で、この系についてはカットオフと真空層に関してギャップが収束していることを確認しています。
計算結果#
バンドギャップ#
表3. Advance/PHASEを用いた基礎バンドギャップ(eV)の計算結果 (PBE, rSCAN, TASK, mTASK)。参照値は MoS2 が実験値、他の4材料は G0W0 による計算値で、HSE06 とあわせて文献 [3] に引用されている値です。
| 材料 | PBE | rSCAN | TASK | mTASK | mTASK − PBE | HSE06 [3] | 参照値 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| MoS2 | 1.77 | 1.86 | 1.97 | 1.98 | +0.20 | 2.02 | 1.88 実験値 |
| ZrS2 | 1.08 | 1.40 | 1.92 | 2.07 | +0.99 | 2.16 | 2.56 G0W0 |
| ZrSe2 | 0.38 | 0.68 | 1.12 | 1.25 | +0.87 | 1.07 | 1.54 G0W0 |
| HfS2 | 1.30 | 1.64 | 2.24 | 2.39 | +1.09 | 2.40 | 2.45 G0W0 |
| HfSe2 | 0.58 | 0.90 | 1.42 | 1.55 | +0.97 | 1.32 | 1.39 G0W0 |

図3. 5材料のバンドギャップ。棒が本計算、黒の太線が参照値(MoS2は実験値、他はG0W0)、橙の破線が文献 [3] の HSE06 計算値です。
PBE から mTASK へ、どの材料でも PBE < rSCAN < TASK < mTASK の順にギャップが単調に増大します。注目すべきは、その増幅が材料によって大きく違うことです。MoS2 では 0.20 eV にとどまり、PBE の時点ですでに実験値との差は 0.11 eV しかありません。一方 1T 型の4材料では 0.87〜1.09 eV も増大します。とくに ZrSe2 では PBE のギャップが参照値の約1/4(0.38 eV 対 1.54 eV)しかなく、mTASK で 1.25 eV まで改善します。
比較に加えた rSCAN は、バンドギャップではなく基底状態の物性を精度よく記述することを目的に開発された SCAN 系の meta-GGA です(図1の r2SCAN も同じ系列の別の汎関数です)。本解析でもギャップの改善幅は TASK / mTASK の半分以下にとどまりました。「meta-GGA だからギャップが拡大」のではなく、バンドギャップの高精度化に特化して設計された meta-GGA だからこそ適切にギャップが拡大するという点が、この比較から読み取れます。
バンド構造#
ギャップの数値だけでなく、バンド構造の形からも汎関数の効き方が分かります。まず、PBE でも参照値に近い MoS2 と、PBE の値が最も小さい ZrSe2 を対比します。

図4. 単層MoS2(1H)のバンド構造。エネルギーは各汎関数の価電子帯上端(VBM)を基準にしています。▼がVBM、▲がCBMの位置、網掛けがバンドギャップです。K点での直接ギャップで、汎関数による違いは小さく収まっています。

図5. 単層ZrSe2(1T)のバンド構造。Γ点のVBMとM点のCBMによる間接ギャップです。PBE の 0.38 eV から mTASK の 1.25 eV へ、ギャップが約 3.3 倍になります。
1T 型の4材料について PBE と mTASK のバンドを重ねると、何が起きているかがはっきりします。

図6. 1T型単層4材料のバンド構造。破線が PBE、実線が mTASK で、いずれも各汎関数のVBMを基準に揃えてあります。
残る3材料(ZrS2・HfS2・HfSe2)のバンド図も、本事例のデータ一式に収めています。
バンドギャップの位置(Γ点のVBM、M点のCBM)は4材料すべてで汎関数によらず共通です。価電子帯上端を基準に揃えると、最上位価電子帯の帯幅の変化は1割以内にとどまり、伝導帯が相対的に上方へ移動する形でギャップが開いています。ただし伝導帯側は平行移動するだけではなく、最下位伝導帯の帯幅(Γ–M–K–Γ 経路上)は PBE から mTASK で 13〜16% 広がっており、変化は価電子帯側より大きくなっています。
精度#
5材料について、参照値に対する平均誤差(ME)と平均絶対誤差(MAE)を求めました。
表4. 参照値に対する誤差(5材料、eV)。負の平均誤差は過小評価を意味します
| 汎関数 | 平均誤差 ME | 平均絶対誤差 MAE |
|---|---|---|
| PBE | -0.94 | 0.94 |
| rSCAN | -0.67 | 0.67 |
| TASK | -0.23 | 0.28 |
| mTASK | -0.12 | 0.22 |
| HSE06(ハイブリッド汎関数) 文献 [3] の値 | -0.17 | 0.23 |

図7. 本計算のバンドギャップと参照値の相関。破線は y = x です。
PBE は5材料すべてでギャップを過小評価し、MAE は 0.94 eV に達します。rSCAN で 0.67 eV、TASK で 0.28 eV、mTASK で 0.22 eV までに改善します。参考として、文献 [3] が同じ5材料について掲げている HSE06 のギャップから同じ手順で求めた MAE は 0.23 eV です。この5材料の範囲では、ハイブリッド汎関数と同程度の精度が semilocal 汎関数の枠内で得られています。
適用範囲と注意点#
構造最適化#
TASK・mTASK はバンドギャップを合わせることを目的に設計された汎関数であり、その代償として構造の記述精度が低下します。文献 [4] は、TASK ではバルク結晶の格子定数が大幅に過大評価されると述べ、これを「非常に正確なバンドギャップを与えることを目的に GGA または meta-GGA のエネルギー汎関数を構成するときに、おそらく避けられない代償」と位置づけています。本解析でも、単層MoS2 の面内格子定数だけを変えて全エネルギーを比べると、mTASK のエネルギー最小は実験値から大きく乖離していました。構造は PBE や SCAN 系の汎関数で決め、その構造を固定してバンドギャップを TASK / mTASK で評価するという役割分担が前提になります。本解析もこの手順で行っており、全汎関数で同一の原子配置を用いています。
擬ポテンシャル#
meta-GGA は運動エネルギー密度を通して波動関数の形に直接依存するため、擬ポテンシャルの扱いの影響を受けやすくなります。本解析でも、PBE では擬ポテンシャルの種別によってギャップがほとんど変わらない条件で、ウルトラソフト擬ポテンシャルを用いた場合には mTASK によるギャップの拡大が現れませんでした。ギャップの数値だけを見ていると「この汎関数は効かなかった」と誤って結論しかねない挙動です。meta-GGA でバンドギャップを計算する際は PAW を用いることを推奨します。
参照値と計算条件#
文献 [3] と同様に、本解析では1T型の単層4材料の参照値には G0W0 による計算値を用いました。G0W0 もまた近似手法であり、それ自体に誤差を含みます。実験値と直接比較しているのは MoS2 のみで、その値についても文献 [3] は、発光(PL)スペクトルから得られたものであり基礎バンドギャップと光学ギャップのどちらと解釈すべきかは明らかでない、と注記しています。また本解析はスピン軌道相互作用を含んでいません。重元素を含む材料では、この効果がバンド端の分裂を通じてバンドギャップに影響します。
まとめ#
第一原理計算ソフトウェア Advance/PHASE と libxc の連携により利用できる meta-GGA 汎関数 TASK / mTASK を用いて、2D遷移金属ダイカルコゲナイド単層5材料のバンドギャップを計算しました。参照値(実験値および G0W0)に対する平均絶対誤差は、PBE の 0.94 eV から mTASK では 0.22 eV へ縮まり、この5材料の範囲では、同じ材料に対するハイブリッド汎関数 HSE06 の誤差(0.23 eV)と同程度の精度です。改善の大きさは材料に強く依存し、MoS2 のように PBE でも参照値に近い材料では変化が 0.20 eV にとどまる一方、1T型の Zr・Hf ジカルコゲナイドでは 0.87〜1.09 eV 増大します。構造最適化は PBE や SCAN 系で行い、その構造に対してギャップだけを mTASK で評価するという役割分担を守れば、2D半導体・光デバイス材料のスクリーニングと設計において実用的な選択肢となります。
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お問い合わせ参考文献#
- J. P. Perdew and M. Levy, "Physical Content of the Exact Kohn-Sham Orbital Energies: Band Gaps and Derivative Discontinuities", Phys. Rev. Lett. 51, 1884 (1983).
- T. Aschebrock and S. Kümmel, "Ultranonlocality and accurate band gaps from a meta-generalized gradient approximation", Phys. Rev. Research 1, 033082 (2019).
- B. Neupane, H. Tang, N. K. Nepal, S. Adhikari, and A. Ruzsinszky, "Opening band gaps of low-dimensional materials at the meta-GGA level of density functional approximations", Phys. Rev. Materials 5, 063803 (2021).
- F. Tran, J. Doumont, L. Kalantari, P. Blaha, T. Rauch, P. Borlido, S. Botti, M. A. L. Marques, A. Patra, S. Jana, and P. Samal, "Bandgap of two-dimensional materials: Thorough assessment of modern exchange–correlation functionals", J. Chem. Phys. 155, 104103 (2021).
- K. F. Mak, C. Lee, J. Hone, J. Shan, and T. F. Heinz, "Atomically Thin MoS2: A New Direct-Gap Semiconductor", Phys. Rev. Lett. 105, 136805 (2010).
- S. Lehtola, C. Steigemann, M. J. T. Oliveira, and M. A. L. Marques, "Recent developments in libxc — A comprehensive library of functionals for density functional theory", SoftwareX 7, 1 (2018).
関連ページ#
- 第一原理計算ソフトウェア Advance/PHASE
- 解析分野:ナノ・バイオ
- 産業分野:材料・化学